TMTを米国首都でアピール:US-Japan Conference on Life on Exoplanets開催
国立天文台は2024年9月19日、米国首都ワシントンD.C.において、TMT計画をはじめとする次世代の望遠鏡計画を議論し米国で広く周知するため、「US-Japan Conference on Life on Exoplanets – Insights and Future Prospects(太陽系外惑星における生命探査の展望に関する日米会合)」と題する国際会議を、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、日本学術振興会(JSPS)とともに開催しました。
太陽系外惑星に生命が存在するのか。人類にとって極めて重要なこの謎の解明を最重点科学目標の一つとした、口径30m級の光学赤外線望遠鏡であるTMTおよびGMTの2台の建設計画からなる 米国超大型望遠鏡計画(US-ELTP:US-Extremely Large Telescope Program)が進められています。現在、US-ELTPについて、米国連邦政府予算による国立科学財団(NSF)参加に向けたプロセスが進められているところです。日本はTMT計画に主要メンバーとして参加しています。さらに、NASAの次世代宇宙望遠鏡計画として、太陽系外惑星探査を主軸とするHWO(Habitable World Observatory)が本格的に検討されており、日本でもこの計画への参加が検討されています。
本会議の目的は、これらの計画によって切り拓かれる科学、新たな技術開発、そして社会への貢献を米国で広く周知し、2030-40年代の計画実現に向けての支持を得ることにあります。そこで、米国政府等が科学政策を議論する中心地ワシントンD.C.において本会議を開催し、地上と宇宙の最先端望遠鏡を用いて太陽系外惑星の探査とそこでの生命存在の調査をどのように進めるかについての講演と議論を通じて、様々なステークホルダーの皆さんに、これらの計画の意義と価値に対する理解を深めていただくことを企図しました。海外でのこうした会議を開催するのは、国立天文台TMTプロジェクトとしては初の試みで、昨年12月から準備を主導してきました。
冒頭、山田重夫駐米日本国特命全権大使によるご挨拶があり、天文学・宇宙開発における日米協力の重要性、特にTMTとGMTがもたらす科学的発展への期待を述べていただきました。会議には、NSF天文学部門から部門長のクリス・スミス氏、US-ELTP担当者のクリス・デイビス氏とルカ・リッツィ氏、NASAから科学担当局長のニコラ・フォックス氏、天体物理学部門長マーク・クランピン氏、ゴダードスペースフライトセンター副所長のシンシア・シモンズ氏、全米アカデミーズ物理・天文学理事会のディレクターのコリーン・N・ハートマン氏など、プロジェクトを担当する政府関係者や政策決定に影響力のある方にご参加いただきました。その他にも連邦政府機関、議員事務所や下院科学・宇宙・技術委員会の連邦議会関係者、各国大使館、大学・研究機関、民間企業、メディアなど、産学官から、総勢86名の方々にご参加いただきました。TMT国際天文台(TIO)からは評議員2名(国立天文台)の他に統括責任者のロバート・カーシュナー氏、GMT天文台からは評議員会議長のウォルター・マッセイ氏(元NSF長官)、機構長のロバート・シェラトン氏と他2名が参加しました。前日には天文学関係者によるサテライトワークショップが実施され、2030年代以降の天文学における科学技術の発展や、国際協力、技術革新、次世代の人材育成等に向けた議論が行われました。
本会議では、日米両国から7名の研究者が講演を行いました。地球外生命探査における最先端の観測技術とその未来に焦点が当てられ、特にUS-ELTPとHWOの相補的な役割について意見交換が行われました。太陽系外惑星における生命探査で両計画が連携することが不可欠であること、具体的には、US-ELTPは太陽より暗く赤い恒星周囲の地球型惑星を、HWOは太陽に似た恒星を周回する地球型惑星を探査することで、生命が存在する兆候を示す指標(バイオシグネチャー)を多様な環境下で捉えられることが示されました。また、JAXAのはやぶさ2による太陽系天体探査の結果や、アルマ望遠鏡による惑星形成分野での最新成果も紹介されました。
パネルディスカッションでは、US-ELTPやHWOの成功には、国際協力の枠組みで多分野にわたる専門家同士が密接に協力し合い、チームとして連携することが不可欠であるということで見解が一致しました。また、社会に対して、期待される科学的成果をわかりやすく説明することはもちろん、両計画の実現が産業の発展、教育の推進、競争力の強化につながることをしっかり伝えることが重要であることが強調されました。
参加者からは、サテライトワークショップも含めて、充実した会議であったとの感想が多く寄せられ、今後もこのようなイベントが継続することを切望する意見もありました。TMTとGMTの執行部がUS-ELTP実現に向けたメッセージを初めて同じ場で一緒に出したことは、本会議の重要な成果であると考えています。次回は米国関係者との共催でこのような会議を行うことを検討しています。
本会議の準備、運営は、JAXA、JSPS、国立天文台TMTプロジェクトが協力して進め、委員長は前国立天文台長である常田佐久氏が務めました。同氏は2024年3月末に同台長を退任した後も、TIO評議員会の共同議長を引き続き務めています。現国立天文台長の土居守も参加し、TMT計画の重要性、日本の貢献などについて出席者に説明しました。出席者からの強い期待を受け、国立天文台TMTプロジェクトとして、TMTの実現に向け引き続き尽力する所存です。
今回の会議が無事成功を収めたのは、ひとえに、すべての参加者、講演者、そして関係機関の皆様のお力添えによるものです。心より御礼申し上げます。