TMT/IRISの光学設計が 第21回 光設計優秀賞を受賞!
TMTの第一期観測装置 IRIS (InfraRed Imaging Spectrograph)は、近赤外線での撮像と分光を行うための装置です。現在は、米国、カナダ、日本が協力して詳細設計を進めています。2018年10月、このIRISの日本担当部分の設計手法と光学設計に対して、「光設計優秀賞」が授与されました。
光学設計とはレンズやミラーなどの光学素子を適切に組み合わせ、装置に必要な仕様を満たす配置を決めることです。光学設計自体は、皆さんお使いのカメラや携帯電話で使われているレンズなど、様々な製品で実施されています。ただし、TMTなど最先端の天文観測機器での光学設計には独特でかつ挑戦的な要求があります。
IRISの光学設計で最も挑戦的な要求は、「結像性能」と「スループット」の両立でした。最初の「結像性能」とは、星や銀河の像がいかにボケないようにするかということです。IRISでは、設定された視野と波長範囲の双方で、極低波面収差を実現しなければなりません。もう一つの要求の「スループット」とは、星や銀河の光をいかに損失なしに集めるかということです。ミラーやレンズなど光学素子を使用した場合、すべての光が反射や透過をするわけではなく、必ずいくらかの光の損失があるため、使用する光学素子はできるだけ減らして設計するなどの工夫が必要です。TMTは世界有数の大口径望遠鏡となるため、主鏡で集めた光は科学的に極めて貴重で、価値のあるものとなります。そのため、光学系のスループットの改善は、とても大きな価値があります。
「結像性能」と「スループット」の両立を実現するにあたり、私(都築) は新しい光学設計手法を考案しました。その設計手法を用いた結果、光学設計は結像性能要求を満足しただけでなく、従来の設計に比べてスループットを相対比で8%向上させることができました。この光学設計はIRISの最も有望な解として採用され、基本設計審査を通過することができました(2016年12月と2017年10月の記事)。
私が所属する国立天文台 先端技術センターは、最先端の天文観測機器の開発拠点です。TMTの第一期観測装置 IRIS、WFOSについても、光学設計、機械設計、試験などを先端技術センターで行っています。今後もさまざまな面でTMTの開発に貢献していければと思います。
(国立天文台 先端技術センター 都築俊宏)
※ 光設計賞:一般社団法人 日本光学会 光設計研究グループが年に一度、光設計分野に関連する優れた研究・技術・発明を表彰するもの。過去の天文関係の受賞では、「すばる望遠鏡レーザーガイド補償光学系の開発」で国立天文台の家正則氏らが光設計特別賞を、「すばる望遠鏡を超広視野化する主焦点補正レンズの開発」でキヤノン株式会社の松田 融氏が光設計特別賞を受賞しています。優秀賞は今回の受賞が初めてとなります。