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カリフォルニア州の学校にオンライン出前授業

投稿者:TMTプロジェクト

秋になり、日本各地で澄んだ夜空を見上げることができるようになりました。マスクをかけての外出はどうしても俯きがちですが、実はこの季節、夏の天の川からお隣の銀河 M31、そして、冬のはなやかな星座まで見ることができます。月のある夜はそれなりに、また星がよく見える夜もそれなりに、上を見上げてみませんか? ということで、少し集中的に出前授業を行いましたので、TMTプロジェクト(カリフォルニア事務所)の林がご報告します。

国立天文台では、例年であれば職員が実際に小中学校に出かけて、「ふれあい天文学」という出前授業を行っています。今年は、新型コロナウイルスによる感染症の広がりを抑えるため、普段の授業そのものが学校の現場ではなく、ご家庭などからのオンライン接続により実施されているところがあります。ふれあい天文学でもオンライン授業が導入されました。さらに、海外子女教育振興財団を通じて、日本語補習校など海外の学校へのオンライン出前授業も初めて行うことができました。TMTプロジェクトでは、6人の職員がカリフォルニア州パサデナ市に赴任しているため、近隣の州の学校なら「職場の地元」と言えます。

今回ご紹介するのは、カリフォルニア州の2箇所の日本語補習校向けに行ったふれあい天文学授業です。米国で育っているが日本語を学びたい、あるいは日本への帰国を前提として、できるだけ国内と同じ教科内容を習得しておきたいという児童・生徒のみなさんが、土曜日だけ日本語の授業を受けます。平日は地元の学校で英語による授業を受けます。米国でも宿題はとても多い。さらに土曜日に別の言語で学び、そこでの宿題もこなすというのは大変なことです。

オンライン出前授業で用いたスライドのタイトル部分

授業の1つ目は、ロサンジェルス郡に分校を展開する「あさひ学園」の高校生向け。大学進学を控え、自身の進路を真剣に見つめている生徒さんたちに、最新の天文学の成果を一部紹介するとともに、天文・宇宙に関連する職場についても考えてもらいました。パサデナ市もロサンジェルス郡に含まれますから、林にとってはまさに地元の学校になります。新型コロナウイルスによる感染症の問題がなければ、TMTの実験室を見学してもらうこともできるでしょう。30メートルの主鏡がバスケットボールのコートや、野球の内野を覆う大きさであることを実感してもらうのは難しいかもしれない。でも、主鏡セグメントを精密に組み立てる手順を作り上げる様子や、様々な部品のテストを見てもらえる。そのような訪問をいつか実現したいものです。

あさひ学園の皆さんと最後にハイタッチ(英語ではHigh Five)

2つ目は、カリフォルニア州北部、いわゆるシリコンバレーに位置する「グロスマン・アカデミー」の小中学生へ。事前に中性子星やニュートリノに関するものなど、たくさんの質問が来ていました。10月末の土曜日、ちょうど満月、しかも、珍しく同じ月の2回目の満月にあたり、授業の中で月に関する話題も取り上げることにしました。折しも授業直前の週に、月にH2O(水分子)発見のニュースがあり、その研究に使われたのがパサデナ近くを基地とする航空機搭載の望遠鏡、研究チームリーダーは発見時にはハワイ大学大学院に在籍中だった、と話題が盛り沢山。しかし、月の土壌をいくら絞っても、得られる可能性のあるH2Oの量は、(カリフォルニア州の)モハベ砂漠で得られる可能性のある量より少ないようで、月の海で泳ぐ、はやっぱりかなわない夢です。

授業で使用したスライドの一枚「今年の話題」

さて、カリフォルニアと言えば、2020年のノーベル物理学賞受賞者のお1人はカリフォルニア大学ロサンジェルス校の研究者で、ハワイ島のケック望遠鏡を使って成果を挙げました。別のお1人はドイツが本拠地ながら、カリフォルニア州北部にあるカリフォルニア大学バークレイ校にも関係しています。2020年5月にはロサンジェルス郡に管制室のあるスペースXが国際宇宙ステーションとの有人往還機「クルードラゴン」の打ち上げに成功。7月に火星に向かって打ち上げられたNASAのロケットに積まれたローバーやヘリコプターは、パサデナ北部にあるジェット推進研究所で作られました。(ローバーのタイヤ模型を、地元のアウトリーチイベントでTMTブースと隣り合わせたジェット推進研究所のブースで見たことがあります。)

授業で使用したスライドの一枚「宇宙の研究をするならカリフォルニア」

このように2020年は宇宙・天文に関するワクワクする話題でいっぱい、カリフォルニア州を舞台とする研究活動の関与が顕著であることを皆さんと共有する機会が得られて、とてもうれしいものでした。

オンライン授業は、参加している児童・生徒の皆さんの様子を把握することが難しい。しかし、どちらの学校も、担当の先生が事前に綿密に連絡を取ってくださり、質問も予め寄せられていて、参加者の関心度や理解度を知ることができました。授業中、みなさんがカメラをオンにしてくれていたので、熱中しているか、関心がそれているかがわかり、お話の軌道修正を試みることができました。質疑応答が始まると、声の調子に熱心さがよく現れることもわかってきました。国際宇宙ステーションとの往来が一般化するようなご時世、オンラインでのコミュニケーション技術の工夫は、もはや欠かせないものだと感じた次第です。

 

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