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若手研究者によるTMTサイエンスワークショップが開催

投稿者:TMTプロジェクト

TMTを用いた新しいサイエンスケースの創出を目指すワークショップシリーズ(TMT-ACCESS)が日本の若手研究者・技術者を中心に立ち上がり、キックオフとなる第1回ワークショップが米国カリフォルニア州パサデナのTMT国際天文台(TIO)のオフィスで開催されました。今回は、主に日本の若手研究者・技術者を対象とした分野横断型のワークショップと位置づけ、TMT計画の最新のタイムラインの下でできる新たなサイエンスケースを幅広く検討しました。

TIOオフィスでの集合写真。2023年9月11日~15日に開催された第1回ワークショップには、大学院生も含めて幅広い研究分野の参加者が集まり、次世代の天文学を担う若手研究者・技術者の交流の場にもなりました。(クレジット:TMT International Observatory)

ワークショップの立案と運営は、天文台内外の若手の天文学者と技術者の8名からなる世話人グループが行いました。以下では、そのうちの4名の方からのコメントを写真を交えながら紹介します。

鵜山 太智さん(国立天文台 / カリフォルニア工科大学;世話人共同代表)

今回は僕自身が初めてこういったワークショップの開催側に立つというところもあり、どれだけの人、特に若手研究者が興味を持ってくれるか、また実際にワークショップへ参加してくれるかという点について、全く予想がついていませんでした。しかし、将来計画に対する若手研究者の機会の少なさという問題意識は以前より持っており、何か動きを作り出そうという意志を持って共同代表の百瀬さん含め他の世話人、また国立天文台TMTプロジェクト、TMT科学諮問委員会の方などと協力し、事前打ち合わせや開催への準備を2023年の年明けより進めておりました。結果として、世話人や招待講演の方を含め、総勢30名以上の方がTIOオフィスに集まり、有意義にワークショップを締めくくる事ができました。

ワークショップでは、インプットだけでなくアウトプットをきちんと出す、またそれを元に、日本だけでなく世界中のTMTコミュニティへのアピールを進めるという事を考えた上でプログラムを作りました。実際、TIOや、第一期装置開発に関わるCaltechの方々による多数のレクチャーだけでなく、TMTに5年先行して観測開始が予定されているE-ELTの現況や、ハワイにおける科学コミュニケーションについてもレクチャーしていただきました。普段と異なるサイエンス・装置開発のバックグラウンドを持つ人たちの招待講演やグループディスカッションを通して、今回参加した方々が多様な刺激を受けていれば嬉しいなと思います。

TMTのサイエンスに関するレクチャーをお願いした方々には、各レビューで日本のパートナーシップについて強調していただいたり、日本コミュニティの関心を促すという本ワークショップの意図を理解し感謝してもらえたりと、日本のTMTへの寄与を非常に評価していただいている事を実感できたのは大きな収穫でした。

最後に、今回得るものも多かったですが、日本コミュニティとして将来的な天文計画を考える上での課題や、本ワークショップをシリーズとして進める上での課題も出てきました。良い点・悪い点それぞれを経験とし、今後のワークショップシリーズをより良いものにしていきたいと思います。

グループディスカッションに先立って、TMTで考えられているサイエンス、TMTの第一期観測装置、ハワイ住民との対話、E-ELTの現状について、TIOとヨーロッパ南天天文台の研究者から学びました。また、カリフォルニア工科大学の研究者により、第一期観測装置の1つであるMODHISのシミュレータを体験しました。さらに、惑星形成、銀河進化形成、宇宙論の各分野から講師をお招きして、レビュートークとパネルディスカッションを行いました。(撮影:百瀬莉恵子さん)

衣川 智弥さん(信州大学;世話人

今回のワークショップでは、銀河、星惑星、高エネルギー天体、宇宙論といった幅広い分野の研究者に参加していただきました。そのなかには、今までTMTに関わった事のない研究者もいて、TMTのサイエンスの可能性を幅広い層の若い研究者に伝えることができました。

本ワークショップはTMTのサイエンスを受身で学ぶのではなく、これからTMTのサイエンスを考える当事者となってもらう事を重視しており、TMTのサイエンスケースを考えるグループディスカッションの時間をいくつかのテーマについて複数回行いました。様々なバックグラウンドを持つ参加者同士の議論によって、銀河や系外惑星と言った硬いテーマだけで無く、軽いウォルフライエ星や褐色矮星の観測、白色矮星の星振といった萌芽的なテーマも考案されました。TMTによる観測可能性についても考察が行われ、考える側としても他のグループの提案を聞く側としてもとても楽しめました。

幅広い分野の若い研究者の様々な観点によりTMTのサイエンスを創出するという本ワークショップの目的は十二分に達成されたと思います。

私自身も普段は連星進化や重力波といった、TMTとは縁遠い研究を行ってきたのですが、TMTによる面白いサンエンスを考えるきっかけを得ることができました。アイデアはあっても装置については無知だったので、観測や装置の方と観測可能性を議論できたことは、とても楽しく有意義な機会でした。

メイン企画であるグループディスカッションでは、4~7名のグループに分かれ、各日に与えられるテーマでTMTを用いたサイエンスケースを提案・議論しました。第1回となる本ワークショップでは「TMT第一期観測装置を用いたサイエンス」、「紫外線観測によるサイエンス/すばる3とのシナジー」、「赤外線観測とJWSTとのシナジー」をテーマとして取り上げました。(撮影:百瀬莉恵子さん)

高橋 葵さん(アストロバイオロジーセンター / 国立天文台;世話人

近い世代の方々と活発で前向きな議論ができ、非常に刺激をもらった5日間でした。海外で活躍する若い日本人研究者や学生に加え、日本国内にもTMTに関連した研究を積極的に進めようとする若手研究者が多くいることがわかり、TMTのような大型望遠鏡計画の重要性を改めて実感することができました。各分野での最先端のトピックを非常にわかりやすく整理していただいた招待講演や、既存の考えに縛られすぎずに意見を出し合えたグループディスカッションにより、専門外の分野について学び考えられたことも大きな収穫となりました。

私は観測装置の開発を行っていますが、同世代の天文学者がどのような観測を求めているのかを知ったことで、今後自分がどのような望遠鏡や観測装置を作っていくべきか考える上でのヒントが得られたと感じています。次回以降のワークショップでは、より多くの、装置開発を専門とする研究者・技術者に参加してもらい、このような意識を共有することで、今後の装置開発をリードする若手研究者のコミュニティを活性化できると考えています。また、提案された観測を実現しうる装置の詳細まで踏み込んでワークショップで議論できれば、理論・観測天文学者と装置開発研究者の間の相互理解が深まるのではないかと期待しています。

2日目にはカリフォルニア州モンロビア市にあるTMT Labの見学会を実施し、TMTの建設に向けた準備が着実に進められていることを若手研究者の皆さんに肌で感じていただきました。国立天文台TMTプロジェクトの中本崇志(本ワークショップ世話人の1人)と林左絵子が、分割鏡の支持機構や制御システムなどについて説明しました。(撮影:梅畑豪紀さん)

梅畑 豪紀さん(名古屋大学 / カリフォルニア工科大学;世話人

ちょうどワークショップのある年に開催地であるパサデナに滞在しているというご縁もあり、開催者の一員として参加させていただくことになりました。日本国内のコミュニティの若手研究者を主たるターゲットと定めつつも米国でワークショップを開催するという、あまり前例のない試みで、何かと手探りの中での準備および開催となりましたが、多くの方に参加していただくことができて安堵しています。

参加者の一人として振り返ると、研究会の前と比較していろいろと学びがあったかなと考えています。TMTのことは知っていても詳細なスペックを元にサイエンスケースを検討するという機会はこれまであまりなかったですし、それらの検討を分野の異なる、また開発する側の方も含めて行うという経験は新鮮なものでした。

今回の参加者の皆さんそれぞれが何か得たものがあり、またTMTの今後の展開に資するものであれば世話人の一人として嬉しく思います。

TMT Labでの集合写真(クレジット:TMT International Observatory)


TMT-ACCESS 第1回ワークショップは、国立天文台、TMT科学諮問委員会、TIO、SUPER-IRNET (学振・研究拠点形成事業) の協力の元、次の8名の世話人によって、企画と運営がされました。
鵜山 太智(国立天文台/Caltech-IPAC;世話人代表)、百瀬 莉恵子(Carnegie Observatories/東京大学;世話人代表)、長谷川 靖紘(JPL/Caltech)、中本 崇志(国立天文台)、衣川 智弥(信州大学)、高橋 葵(ABC/国立天文台)、梅畑 豪紀(名古屋大学/Caltech)、砂山 朋美(Univ. Arizona)

(関連リンク)
TMT Hosts Science Workshop for Early Career Astronomers and Engineers from Japan (TMT国際天文台)

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