2023年を振り返って
国立天文台TMTプロジェクト長の臼田です。早いもので、2023年も残すところあとわずかになりました。今回のブログ記事では、ハワイでの対話活動と、米国の国立科学財団(National Science Foundation、NSF)の審査状況について振り返りたいと思います。
ハワイでの対話活動
TMT国際天文台(TIO)のプロジェクトマネージャーであるLiu氏と共に、2021年夏にハワイ島ヒロに赴任して、2年半が経ちました。ハワイ観測所の副所長として在任した時期を含めると、通算18年になります。
この2年半にわたって、Liu氏が中心となり、TMT建設に反対する人々を含め600人以上にのぼる地元の人たちと対話をしてきました。徐々に対話の輪が広がり、今では反対派の複数のリーダーたちと対話するようになりました。はじめは強く批判されることもありましたが、状況を少しでも理解しようと、その意見に耳を傾け、時に数時間、複数回に及ぶこともあり、徐々に互いを知る機会となっています。反対の立場を取ってきた人も今ではTIOの地域での活動を支援してくれたり、賛同してくれたりする人もいます。見解が変わらなくても、継続して話し合いをする関係を築くことができ、ありがたく感じています。またTMTに関する誤解や誤った情報もあるため、正しい情報をお伝えしており、それを踏まえたうえで判断してほしいと思っています。
対話活動では、TMTをはじめとする既存望遠鏡やハワイ大学に対する意見、天文学の恩恵が広く地域にいきわたっていないことなど改善すべき点が指摘され、TIOや国立天文台での活動にも取り入れています。ハワイは観光地という華やかなイメージがありますが、教育、経済、医療などにおける格差の解消を求める声や、ハワイ王国転覆に関わる歴史的背景など、TMT建設反対の理由にはTMTや天文学では解決できない問題が多々あります。しかしながら、関係がないと背を向けるのではなく、周囲の人々が直面する問題を理解することが地域の一員として大切だと思っています。
NSFの審査状況
NSFの参加に向けて、基本設計審査が2022年11月から2023年2月はじめにかけてありました。外部審査会では、TMT計画は最終設計段階に移行する準備ができているとされ、またハワイでの対話等のアウトリーチ活動も高く評価されました。NSFでは現在、最終設計審査に向けた手続きを進めています。国立天文台でもTIOや他のメンバー機関と連携しながら、NSFの最終設計審査に向けて着実に準備しています。ホームページ、国立天文台の三鷹・星と宇宙の日、外部イベントなどを通じて、進捗状況をお伝えしていきたいと思います。
皆様の叱咤激励の声がTMTプロジェクトの励みとなり、TMT実現に向けて前進する力となっており、TMTプロジェクト長として心より感謝申し上げます。来年も一層精進してまいりますので、変わらぬご厚情を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。