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Jerry Nelson 追悼研究会

投稿者:TMTプロジェクト

実現不可能と言われた分割鏡方式でケック望遠鏡を完成させたJerry Nelson博士が2017年6月10日に享年73歳で逝去されました。7月13日-14日、カリフォルニア州サンタクルーズ市内のホテルParadoxにてJerry Nelsonを偲ぶ会が開催されました。JerryはTMTの基本設計もリードしていましたが、2011年に脳卒中で倒れた後も、自宅から折々の検討会にTV参加して、左手でパソコンを操作し、短いメールで有益な助言を続けてきました。Jerryの偉業を称える研究会を企画できないかと2年前に筆者からも提案し、今年の4月の開催に向けてMike Bolte(カリフォルニア大学教授)とHilton Lewis(ケック天文台長)が準備してきたのですが、諸般の事情で開催が7月になり、Jerryと直接会い労をねぎらう機会を失してしまったのは、誠に心残りです。

Jerry Nelson博士(TMT国際天文台提供)

1944年1月15日にロサンゼルス郊外の田舎町で生まれたJerryは、高校生のときに夏の学校で天文学に接する機会を得、その町で大学へ進学した最初の子供となったそうです。1965年にカリフォルニア工科大学で赤外線での全天サーベイ用1.5m望遠鏡の建設に携わり、素粒子実験でカリフォルニア大学から学位を取得しました。

1977年ローレンス・バークレー国立研究所に在籍中に、10m望遠鏡検討のための5人委員会に抜擢され、今日のケック望遠鏡の元となる分割鏡方式の提案をまとめました。主鏡を分割することで全体を軽量化し、コストダウンをはかることができるのは自明でしたが、分割鏡は軸外し非球面に研磨する必要があります。Jerryは、この難題を曲げ研磨法を開発することで乗り越えようと提案しました。実際に36枚の分割鏡の位置と向きを合わせ、隣接する鏡との高さを光の波長のレベルで揃えて位相合わせをすることは、更なる困難と考えられましたが、ケック望遠鏡では、168個のエッジセンサーを鏡の縁に配置し、108個のモーターで鏡の姿勢を調整して全体を一枚続きの主鏡として機能させることに成功しました。

10m望遠鏡計画では、分割鏡方式はその余りの複雑さのため実現困難と当初考えられました。Jerryは六角形に切り落とした試作鏡と切り落とされた鏡の縁部分(耳と呼ぶ)との位相合わせが実際に可能であることを試験機で実証し、ケック望遠鏡の建設が始まったのです。実は、すばる望遠鏡の設計を検討したときは、この方式は実現不可能と判断しました。

Jerryは1994年にカリフォルニア大学サンタクルーズ校の教授となり、1999年には補償光学センターの初代所長となりました。2003年以降はTMTの基本設計をリードしてきましたが、2011年に脳卒中で倒れた後も電子メールで重要なコメントを発し続けていました。

Jerry は2010年のカヴリ賞をハニカム鏡方式の開発者Roger Angel、薄メニスカス鏡方式の開発者Raymond Wilsonとともに受賞しています。

Jerry Nelsonを偲ぶ会には、交流のあった100人余りが参加し、その半数ほどの人が次々に登壇して、Jerryの明晰な頭脳と飽くなき探究心のエピソードを紹介して称えました。気さくで飾らぬ性格のJerryは、他人の発表に問題があることに気づいた場合も、いつも笑顔のまま、「そのスライド9枚目が良く理解できないんだけど・・・」という問いかけから鋭い指摘が始まったということを複数の人が想い出として語っていました。筆者も海外からの参加者として、すばる建設時代の交流やスペインの望遠鏡計画のレビューに一緒に参加した想い出とTMTへの参加の経緯などをお話させて頂きました。日本からは他にカリフォルニア出張中の林左絵子、鈴木尚隆両氏が参加しました。

同氏のご冥福をお祈りします。

TMT推進室 家正則

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