三鷹・星と宇宙の日2025

10月25日(土)に開催された「三鷹・星と宇宙の日2025」は、あいにくの雨にもかかわらず、多くの方々にご来場いただきました。昨年より来場者数は少なかったものの、館内では、展示や体験企画を楽しむ姿があちこちで見られ、雨の影響を感じさせないほどの賑わいとなりました。

展示棟ロビーで行われたTMTクイズ。当日の来場者の約3分の1にあたる、554名がクイズに挑戦しました。

展示棟ロビーでは、TMTプロジェクトによるクイズ企画を実施しました。今年のクイズは、TMTをまだ知らない方にも気軽に参加していただけるよう、写真やイラストを取り入れたわかりやすい問題構成にしてみました。会場では、クイズを解きながらTMTの模型や実物大の分割鏡試作品を熱心に眺める来場者の姿が目立ち、TMTのスケール感や技術的特徴に興味を持ってくださる様子がうかがえました。

TMTの分割鏡試作品を前に解説する様子。クイズ企画のスタッフはTMT柄のとんがり帽子をかぶっています。

すばる棟では、ハワイ観測所とTMTプロジェクトが合同で多彩な企画を展開しました。TMTプロジェクトのスタッフも各企画に積極的に参加し、訪れた方々と直接対話しながらすばる望遠鏡やTMTについて紹介しました。来場者からの質問に答えたり、研究や開発の様子を伝えたりと、スタッフ自身も交流を楽しむ充実した時間となりました。

約10分のミニトークを楽しむサイエンスカフェ

すばる望遠鏡のドーム内をVRで楽しむ体験企画。すばる望遠鏡での勤務経験を持つスタッフが解説することで、臨場感がさらに高まります。

すばる望遠鏡の最近の観測成果やトピックスについて紹介する様子。

分光器の体験企画でも、TMTプロジェクトメンバーが活躍しました。


関連記事:
三鷹キャンパス特別公開「三鷹・星と宇宙の日 2025」(すばる望遠鏡 トピックス)

赤外線分光器 MODHISが概念設計を完了

TMTの第一期観測装置の1つである MODHIS(多目的回折限界近赤外高分散分光器)が、概念設計審査を完了しました。これにより、装置開発は次の段階である基本設計へ進むことになります。

2025年9月24~25日(パサデナ時間)に、MODHISの概念設計を締めくくる3回目のMODHIS概念設計審査会(MODHIS CoDR-3)がZoom会議形式で開催されました。今回の審査では、補償光学系(AO)との機械的インターフェースや、偏光観測機能の導入コンセプトなど、前回審査(CoDR-2)以降の設計更新が報告されました。

第3回概念設計審査に参加したMODHIS開発チームと審査員(クレジット:TMT国際天文台)

国際的な専門家からなる審査パネルは、これまでの設計の進展を高く評価し、MODHISが概念設計を完了したと認定しました。また、装置の設計要求に偏光分光機能を加えることを推奨しました。

MODHISは、TMTのAOシステム「NFIRAOS」の後段に設置される近赤外分光装置で、超高分散分光(分解能 R > 100,000)を実現するよう設計されています。高精度な視線速度測定や偏光分光観測によって、太陽系外惑星の大気成分や生命の兆候の探索、銀河中心のダイナミクス、太陽系天体の詳細観測など、多目的に渡る幅広い分野での活躍が期待されています。

(左)NFIRAOSに搭載されたMODHISトップエンド部の完成予想図。トップエンド部は入射光を光ファイバーに導き、その光は高分散分光器へ送られます。(右)高分散分光観測を行うことで、水(青)、アンモニア(緑)、硫化水素(黄)など分子の分光特徴を効率的に分離し、系外惑星の大気や生命存在の可能性を探ることが可能になります。(クレジット:TMT国際天文台)

MODHISの開発は、カリフォルニア工科大学、カリフォルニア大学を中心に、TMTパートナー国の研究者が協力して進めています。W. M. ケック天文台とも協力しており、同天文台の系外惑星観測装置「HISPEC」の開発を通じて得られた先進技術や洗練された較正手法がMODHISの開発に大きく生かされています。

今回の概念設計審査の完了により、MODHISはTMT第一期観測装置としての実現に向け、さらに一歩前進しました。

前回審査会(CoDR-2)までTMT国際天文台でMODHISプロジェクトマネージャーを務め、本審査会には審査員として参加した国立天文台TMTプロジェクトの寺田宏教授は次のように述べています。

「限られたリソースの中で開発を堅実に推し進め、装置の概念設計を高いレベルで完成させた開発チームに敬意を表します。今回導入が推奨された「偏光分光機能」は他の超大型望遠鏡の系外惑星観測装置にはないユニークな機能であり、この実現により全く新たな切り口で系外惑星の姿に迫ることが可能になるでしょう。基本設計に入る今後のMODHIS開発では、HISPEC開発で核心的な貢献を続けてきた日本の開発チームのさらなる寄与が重要となってきます。国際共同開発の枠組み・体制を堅持/深化させ、装置開発の不断の進展を目指します」

 


参考:MODHIS Achieves a Key Milestone with Successful Conceptual Design Review (TMT国際天文台)
赤外線分光器 MODHISが 概念設計審査の第一段階を通過 (2023年1月 TMTブログ)
赤外線分光器 MODHISの 第二回概念設計中間審査会が開催 (2024年3月 TMTブログ)

 

WFOSが第1回基本設計審査に合格

2025年8月7~8日(現地時)に可視広視野多天体分光装置 WFOSの第1回基本設計審査が米国カリフォルニア州パサデナのTMT国際天文台(TIO)オフィスおよびZoomを通じて開催されました。基本設計段階が始まってからの進捗が国際的な専門家チームによって審査された結果、大きな問題は指摘されず、開発を進めてよいとの判断が下されました。

審査会に参加したWFOS開発チームと審査員たち。国立天文台ハワイ観測所の早野裕教授も審査員として参加しました。WFOSの開発は、カリフォルニア工科大学やインド、日本などの国際チームによって進められています。(クレジット:TMT国際天文台)

WFOSは、TMTの第1期観測装置の1つで、一度におよそ100天体を分光観測できるのが特長です。恒星や銀河、さらには銀河間ガスの性質を詳しく調べることができ、天文学のほぼあらゆる分野で新発見をもたらすことが期待されています。

左:TMTのナスミス台に搭載されたWFOSの完成予想図。右:背景銀河の光を用いて銀河間ガスをマッピングする想像図。WFOSは、銀河間ガスの3次元分布を再構成するのに十分な感度と視野を備えています。(クレジット: C. Stark and K. G. Lee)

今回の審査会では、日本が長らく検討を進めてきた面分光ユニット(IFU: Integral Field Unit)をWFOSの必須機能として組み込むかどうかが大きな議題の1つとなりました。IFUは、視野全面を一気に分光できる光学ユニットで、広がった天体を詳細に調べることができます。

これまでIFUは、予算の制約から「将来の追加機能」として計画されていました。しかし、最近の設計見直しによってWFOS本体の開発コストが削減され、IFUを必須機能として組み込む余地が生まれました。今回の審査では、このIFUの重要性が改めて認められ、WFOSの必須機能として導入すべきとの結論が示されました。TIOで承認されれば、IFUの必須機能化が正式に決定します。

国立天文台でWFOSの開発に携わる尾崎忍夫講師は「2010年に国立天文台先端技術センターに着任して以来検討してきた面分光ユニットが必須機能に含まれるかもしれない可能性が高まり、感慨深く思います。WFOSの面分光ユニットは広い視野を特徴としていて、銀河の形成進化に新たな知見をもたらすと期待しています」と語ります。

 


参考
WFOS Preliminary Design Review 1 Successfully Completed (TMT国際天文台)

TMTサイエンスワークショップ第3回が開催

TMTを用いた新しいサイエンスケースの創出を目指すワークショップシリーズ(TMT-ACCESS)の第3回ワークショップが7月15日~18日に国立天文台三鷹キャンパスにて開催されました。今回は「極限性能を引き出すための装置開発の課題とブレークスルーに向けて」をテーマとして、招待講師による講演、分野横断型のグループディスカッション、ラボツアーを4日間に渡って行いました。総勢43名の大学院生、若手研究者、スタッフに参加いただき、グループディスカッションでは事前アンケートで議論したい装置を決定した上で、TMTの次世代装置の計画を議論しました。今回は、国立天文台の尾崎 忍夫氏、京都大学の山本 広大氏、東京大学の上塚 貴史氏、ABC/国立天文台の小谷 隆行氏の4名が講師を務め、実践的な装置開発研究についてお話しいただきました。また、初日には、JWSTによる最新の研究を紹介し、TMTの将来装置に求められる機能・性能の議論につなげることを目的としたセッションが開催されました。

ワークショップの立案と運営は、国立天文台内外の若手の天文学者と技術者の12名からなる世話人グループが行いました。以下では、その内の3名からのコメントを紹介します。

瀧本幸司(JAXA宇宙科学研究所;世話人)

私はスペース観測機器のユーザーかつデベロッパーなので、地上観測にはあまり馴染みがないのですが、当時(第2回)の世話人の方から、「地上大型望遠鏡とスペース望遠鏡の両方を相補的かつ戦略的に活用することが不可欠であり、両者は切っても切り離せない関係だ!装置開発を専門とする人が少ないから来て!」とお誘いをいただき、第2回ワークショップから参加してみました。予告通り、装置開発をやっている人は殆どいなかったので、無い知恵を絞って装置性能の提案をした記憶があります。第2回ワークショップが終わり、(勉強にもなったし、雰囲気も良くて楽しかったなぁ。来年度もまた参加…)と思っていた約半年後、今度は「世話人をやらないか!」とお誘いをいただきました。その時点では第3回のテーマは未定のようでしたが、「より装置のウェイトを置いたものにできれば良いなと思っています!」との事だったので、二つ返事で承諾しました※。

第3回ワークショップは、テーマを“極限性能を引き出すための装置開発の課題とブレークスルーに向けて”とした甲斐もあり、装置開発者がグンと増えた印象を受けました。それに伴い、(良くも悪くも)現実的な将来装置の検討が出来たのではと思います。一番の収穫は、『サイエンティストとエンジニアが、どうコミュニケーションを取ると良いか』が、ぼんやりと分かった事でした。私は工学脳寄り(+勉強不足)なので、理学メインの方がやりたいサイエンスを力説してくれても、いまいち理解できず、途中から宇宙人と話している気分でした。ただ、後半になって、(もっと定量的に、数字で議論すれば、会話できそう…)と思い、提案・実行してみると、「このサイエンスには波長分解能が30万くらい必要です。」「500nmより短波長側はAOの効きが悪くなりそう。」といった具合に議論を進めることができました。一方で、(自身がサイエンスケースをある程度把握していれば、コミュニケーションで躓くことも無かったな…)と反省しており、『デベロッパーはユーザーと同じ水準でサイエンスケースを理解する必要があり、逆(装置開発)もまた然り』という課題が浮き彫りになったように感じました。TMT-ACCESSでは今後さらに深い議論が必要になると思いますので、理学と工学の二刀流を目指したいですね。

※実のところ、打上げ目前の観測機器の取りまとめや家庭環境の変化によって、世話人らしい裏方仕事が殆ど出来ず、他の世話人メンバーには大変ご迷惑をおかけしました。

鈴木竜二(TMTプロジェクト;世話人)

TMT-ACCESSの世話人に参加したきっかけは、確か世話人の鵜山さんから声をかけていただいたことだったと記憶しています。世話人の中での私の役割は、「TMTプロジェクト側からの世話人」、「装置開発の立場からのインプットを出せる人」と勝手に認識していました。私は現在TMT第一期観測装置IRISの開発に携わっています。長年TMTプロジェクトにいて、TMTにおいてどの様にサイエンスと観測装置の設計が結びついているのかを見てきたため、この点のインプットもワークショップへ貢献できればと思っていました。

今回のワークショップの感想ですが、まずは準備のことから。今回は、過去2回の開催の経験を元に、「より具体的な次世代望遠鏡を見据えた装置」の提案を目指しました。本ワークショップは毎回新しいテーマで行っていますが、限られた時間で意味のある成果を出せるようにするために、メインとなるグループディスカッションの制度設計がとても難しいです。何度も議論をして事前準備をし、無事開催にこぎつけた世話人の皆さん、特に議論をリードしてくださった米田さん、お疲れ様でした。当日は、頭を常時フル回転させ続けた3日間でした。サイエンスの理解、機能/性能要求への定量化、既存/計画中の観測装置との比較、観測装置のアーキテクチャの考察、開発要素の同定と開発プランの考察。普段はもっと時間をかけて行う作業のエッセンスを3日で駆け抜けるのですから稀有な体験です。また観測、理論、装置開発の人が一同に会してグループディスカッションをするという意味でも、他ではなかなか得られない体験だと思います。最近脳に刺激が足りてない方、視野を広げてみたい方、他の分野にも知り合いを作りたい方、観測装置開発に興味のある方、次回のワークショップへの参加、特に世話人としての参加、お待ちしています。

最後に、今回も素晴らしい観測装置、サイエンスの提案がありました。ワークショップでの成果をISDTやR&Dなど具体的なアクションに繋げるべく、世話人及びプロジェクトのメンバーとして模索していきます。

小野里宏樹(国立天文台;世話人)

ワークショップシリーズとして開催されているTMT-ACCESSも今回で3回目となりました。第1回はTMTを用いて行いたいサイエンスを、第2回はサイエンスを実現させるための「夢の装置」を議論することが主眼にありました。今回は「極限性能を引き出すための装置開発の課題とブレークスルーに向けて」をテーマとし、前回の夢の装置からより現実的に開発可能なスペックの装置を考え、そのスペックで実現できるサイエンスについて議論しました。観測装置について踏み込んだ議論ができるように装置開発者の参加を積極的に募り、その甲斐もあり各グループに複数人の装置開発者を交えて議論を行うことができました。

今回、装置開発者の方とグループディスカッションを行うことができて、観測装置の制限についても定量的に議論する機会を得ることができました。普段サイエンスを考える際には観測の準備でもデータの解析でももちろん定量的に考えているのですが、観測装置を考える際には意外に定量的に考えることができていないことを実感しました。例えば視野を広げるためには検出器が多く必要になるので費用が嵩み、赤外線検出器では冷却が大変そうなど何となくは思っていました。しかし、具体的に議論するとTMTのスペックを最大限活かすためには検出器が数千個必要になったり、補償光学のためのレーザーも数百本打つ必要があったりとより厳しい現実を思い知ることとなりました。最終的には、比較的現実的な開発要素で実現できる視野・空間分解能と挑戦的な開発要素により実現できそうなサイエンスへと落とし込むことができ、ワークショップの目的でもあったサイエンスと装置開発の間のせめぎ合いを体感することができました。

世話人としては開催地ということもあり事務的なことを中心に担当しました。そのため、すばる室の事務の方とさまざまなやり取りを行い、助けていただくことが多々ありました。ここで改めて感謝申し上げます。