インド国際宇宙会議で、TMTを紹介

2025年11月18日・19日、常田佐久氏(前国立天文台長、自然科学研究機構特任教授)が、インド・デリーで開催された国際宇宙開発会議「India International Space Conclave 2025」に参加しました。二日間にわたって開催された会議には、ジテンドラ・シン科学技術大臣をはじめ、インドの政府機関、大学・研究機関、民間企業の関係者が多数参加し、会場は熱気に包まれていました。

常田氏は、初日に行われた日印宇宙協力セッションで、現在と今後の両国の連携について基調講演を行いました。

初日の開会セッションでは、在インド日本国大使館の有吉孝史次席公使が挨拶を行い、日本とインドが主要な協力計画として、月極域探査機(LUPEX)プロジェクト(※)やTMT計画を推進していることを紹介しました。

続く常田氏の基調講演では、日本とインドの科学協力プロジェクトの一例として、TMT計画を取り上げ、TMTのパートナーであるインド天体物理学研究所(IIA)が、主鏡分割鏡の研磨や外形加工、さらに主鏡分割鏡を制御する支持機構の製造など、TMT建設に不可欠な高度技術を有しており、計画に多大な貢献をしていることを紹介しました。

内閣府宇宙開発戦略推進事務局からは樋口晋一参事官(国際担当)が登壇し、日本の宇宙政策について紹介しました。また、宇宙航空研究開発機構 (JAXA)の宇宙飛行士として活躍した山崎直子氏もオンラインで参加し、各国における訓練方法の違いなどの質問に対し、自身の経験に基づく知見を共有しました。

さらに、日本代表団として、JAXAのLUPEX担当者が同ミッションの最新状況について説明したほか、民間企業からは日本の宇宙市場の動向や、インド民間企業との連携に関する発表がありました。

インドは、月面着陸や火星探査、有人宇宙飛行、商業衛星打ち上げなど、多岐にわたる分野で躍進を遂げています。これらは、インド宇宙研究機関(ISRO)を中心とした高い技術力と豊富な人材によって支えられています。

(左)常田氏と、有人宇宙飛行「ガガンヤーン」の宇宙飛行士候補。宇宙飛行士は若年層の憧れの的となっています。(右)産学官のトップが一堂に会し、宇宙開発の今後について活発に議論しました。

さらに、新型コロナウイルスによる経済活動の停滞を契機に、インド政府は構造改革を推進し、宇宙分野を重要な政策領域と位置づけ、民間企業の参入を促進するなど、官民連携によるエコシステムの構築を進めています。こうした取り組みにより、インドの宇宙分野は今後もさらなる飛躍が期待されています。

このような背景から、日本との連携の機会や助言を求めて、常田氏には、訪問前から「ぜひ話をしたい」と連絡があり、また取材の依頼も相次ぎ、ニューデリー・テレビジョンの科学専門記者から、TMTがもたらす可能性のある発見や、インドの貢献についてテレビ取材を受けました(ニューデリー・テレビジョンの報道:India & Japan Join Forces To Hunt For Aliens With Giant Telescope)。

(左)ニューデリー・テレビジョンの科学専門記者からTMTに関するインタビューを受けている様子。(右)多くの方と知見を共有する機会となりました。

インド側の参加者の期待と熱意を受け止めて、常田氏は全てのプログラムに出席し、次々と訪れる来訪者に対応していました。

本会議は、多くの方にTMTの重要性を理解していただく貴重な機会となりました。またインドのTMTメンバー代表である科学技術庁次官、インドの宇宙開発を牽引するISRO長官とも面談する機会もあり、TMTをはじめとする日本とインドの科学協力計画をさらに推進するうえで、有意義な意見交換を行うことができました。

 


※月極域探査機(LUPEX)プロジェクトは、月の南極で水資源探査を行うJAXAとISROの共同ミッションです。JAXAはロケットとローバの開発、ISROは着陸機の開発と運用を担当します。インドではチャンドラヤーン5号と呼ばれています。

三鷹・星と宇宙の日2025

10月25日(土)に開催された「三鷹・星と宇宙の日2025」は、あいにくの雨にもかかわらず、多くの方々にご来場いただきました。昨年より来場者数は少なかったものの、館内では、展示や体験企画を楽しむ姿があちこちで見られ、雨の影響を感じさせないほどの賑わいとなりました。

展示棟ロビーで行われたTMTクイズ。当日の来場者の約3分の1にあたる、554名がクイズに挑戦しました。

展示棟ロビーでは、TMTプロジェクトによるクイズ企画を実施しました。今年のクイズは、TMTをまだ知らない方にも気軽に参加していただけるよう、写真やイラストを取り入れたわかりやすい問題構成にしてみました。会場では、クイズを解きながらTMTの模型や実物大の分割鏡試作品を熱心に眺める来場者の姿が目立ち、TMTのスケール感や技術的特徴に興味を持ってくださる様子がうかがえました。

TMTの分割鏡試作品を前に解説する様子。クイズ企画のスタッフはTMT柄のとんがり帽子をかぶっています。

すばる棟では、ハワイ観測所とTMTプロジェクトが合同で多彩な企画を展開しました。TMTプロジェクトのスタッフも各企画に積極的に参加し、訪れた方々と直接対話しながらすばる望遠鏡やTMTについて紹介しました。来場者からの質問に答えたり、研究や開発の様子を伝えたりと、スタッフ自身も交流を楽しむ充実した時間となりました。

約10分のミニトークを楽しむサイエンスカフェ

すばる望遠鏡のドーム内をVRで楽しむ体験企画。すばる望遠鏡での勤務経験を持つスタッフが解説することで、臨場感がさらに高まります。

すばる望遠鏡の最近の観測成果やトピックスについて紹介する様子。

分光器の体験企画でも、TMTプロジェクトメンバーが活躍しました。


関連記事:
三鷹キャンパス特別公開「三鷹・星と宇宙の日 2025」(すばる望遠鏡 トピックス)

赤外線分光器 MODHISが概念設計を完了

TMTの第一期観測装置の1つである MODHIS(多目的回折限界近赤外高分散分光器)が、概念設計審査を完了しました。これにより、装置開発は次の段階である基本設計へ進むことになります。

2025年9月24~25日(パサデナ時間)に、MODHISの概念設計を締めくくる3回目のMODHIS概念設計審査会(MODHIS CoDR-3)がZoom会議形式で開催されました。今回の審査では、補償光学系(AO)との機械的インターフェースや、偏光観測機能の導入コンセプトなど、前回審査(CoDR-2)以降の設計更新が報告されました。

第3回概念設計審査に参加したMODHIS開発チームと審査員(クレジット:TMT国際天文台)

国際的な専門家からなる審査パネルは、これまでの設計の進展を高く評価し、MODHISが概念設計を完了したと認定しました。また、装置の設計要求に偏光分光機能を加えることを推奨しました。

MODHISは、TMTのAOシステム「NFIRAOS」の後段に設置される近赤外分光装置で、超高分散分光(分解能 R > 100,000)を実現するよう設計されています。高精度な視線速度測定や偏光分光観測によって、太陽系外惑星の大気成分や生命の兆候の探索、銀河中心のダイナミクス、太陽系天体の詳細観測など、多目的に渡る幅広い分野での活躍が期待されています。

(左)NFIRAOSに搭載されたMODHISトップエンド部の完成予想図。トップエンド部は入射光を光ファイバーに導き、その光は高分散分光器へ送られます。(右)高分散分光観測を行うことで、水(青)、アンモニア(緑)、硫化水素(黄)など分子の分光特徴を効率的に分離し、系外惑星の大気や生命存在の可能性を探ることが可能になります。(クレジット:TMT国際天文台)

MODHISの開発は、カリフォルニア工科大学、カリフォルニア大学を中心に、TMTパートナー国の研究者が協力して進めています。W. M. ケック天文台とも協力しており、同天文台の系外惑星観測装置「HISPEC」の開発を通じて得られた先進技術や洗練された較正手法がMODHISの開発に大きく生かされています。

今回の概念設計審査の完了により、MODHISはTMT第一期観測装置としての実現に向け、さらに一歩前進しました。

前回審査会(CoDR-2)までTMT国際天文台でMODHISプロジェクトマネージャーを務め、本審査会には審査員として参加した国立天文台TMTプロジェクトの寺田宏教授は次のように述べています。

「限られたリソースの中で開発を堅実に推し進め、装置の概念設計を高いレベルで完成させた開発チームに敬意を表します。今回導入が推奨された「偏光分光機能」は他の超大型望遠鏡の系外惑星観測装置にはないユニークな機能であり、この実現により全く新たな切り口で系外惑星の姿に迫ることが可能になるでしょう。基本設計に入る今後のMODHIS開発では、HISPEC開発で核心的な貢献を続けてきた日本の開発チームのさらなる寄与が重要となってきます。国際共同開発の枠組み・体制を堅持/深化させ、装置開発の不断の進展を目指します」

 


参考:MODHIS Achieves a Key Milestone with Successful Conceptual Design Review (TMT国際天文台)
赤外線分光器 MODHISが 概念設計審査の第一段階を通過 (2023年1月 TMTブログ)
赤外線分光器 MODHISの 第二回概念設計中間審査会が開催 (2024年3月 TMTブログ)

 

WFOSが第1回基本設計審査に合格

2025年8月7~8日(現地時)に可視広視野多天体分光装置 WFOSの第1回基本設計審査が米国カリフォルニア州パサデナのTMT国際天文台(TIO)オフィスおよびZoomを通じて開催されました。基本設計段階が始まってからの進捗が国際的な専門家チームによって審査された結果、大きな問題は指摘されず、開発を進めてよいとの判断が下されました。

審査会に参加したWFOS開発チームと審査員たち。国立天文台ハワイ観測所の早野裕教授も審査員として参加しました。WFOSの開発は、カリフォルニア工科大学やインド、日本などの国際チームによって進められています。(クレジット:TMT国際天文台)

WFOSは、TMTの第1期観測装置の1つで、一度におよそ100天体を分光観測できるのが特長です。恒星や銀河、さらには銀河間ガスの性質を詳しく調べることができ、天文学のほぼあらゆる分野で新発見をもたらすことが期待されています。

左:TMTのナスミス台に搭載されたWFOSの完成予想図。右:背景銀河の光を用いて銀河間ガスをマッピングする想像図。WFOSは、銀河間ガスの3次元分布を再構成するのに十分な感度と視野を備えています。(クレジット: C. Stark and K. G. Lee)

今回の審査会では、日本が長らく検討を進めてきた面分光ユニット(IFU: Integral Field Unit)をWFOSの必須機能として組み込むかどうかが大きな議題の1つとなりました。IFUは、視野全面を一気に分光できる光学ユニットで、広がった天体を詳細に調べることができます。

これまでIFUは、予算の制約から「将来の追加機能」として計画されていました。しかし、最近の設計見直しによってWFOS本体の開発コストが削減され、IFUを必須機能として組み込む余地が生まれました。今回の審査では、このIFUの重要性が改めて認められ、WFOSの必須機能として導入すべきとの結論が示されました。TIOで承認されれば、IFUの必須機能化が正式に決定します。

国立天文台でWFOSの開発に携わる尾崎忍夫講師は「2010年に国立天文台先端技術センターに着任して以来検討してきた面分光ユニットが必須機能に含まれるかもしれない可能性が高まり、感慨深く思います。WFOSの面分光ユニットは広い視野を特徴としていて、銀河の形成進化に新たな知見をもたらすと期待しています」と語ります。

 


参考
WFOS Preliminary Design Review 1 Successfully Completed (TMT国際天文台)