赤外線分光器 MODHISが 概念設計審査の第一段階を通過

TMTの第一期観測装置の1つである MODHIS(多目的回折限界近赤外高分散分光器)は、生命の兆候を示す地球型系外惑星の発見などを目的として開発が進められています。2022年8月に最初の概念設計中間審査会が開催され、約30名の技術者や科学者がオンライン上に集まり、進捗を評価しました。

8月12日にオンラインで行われた審査会の画面。カリフォルニア大学(ロサンゼルス校、サンディエゴ校)、カリフォルニア工科大学、NASAジェット推進研究所、TMT国際天文台から30名近い技術者や科学者が参加しました。国立天文台からは、MODHISのプロジェクトマネージャーを務める寺田が参加しました。(クレジット:TMT国際天文台)

今後数十年間の科学的な最優先事項の1つは、太陽系以外の惑星系を探査し、生命の存在可能性を判断することです。MODHIS は、系外惑星の組成や物理的特性を調べながら、そのスペクトルの中に生命の存在を示す微妙なバイオシグナチャーを探すことができる強力な装置となる予定です。MODHISが実現する科学目的の検討には、東大、アストロバイオロジーセンター、東工大、宮城教育大、国立天文台など、日本の研究者も大きく貢献しています。装置開発においても、すばる望遠鏡の赤外線分光器(IRD)の技術を取り入れることが検討されるなど、アストロバイオロジーセンターを中心とする日本の研究者チームの寄与が期待されています。

MODHISは近赤外線波長域 0.98~2.46ミクロンで、高波長分解能(100,000以上)の分光観測を実現します。補償光学を使用して、回折限界に達したシャープな天体の光を無駄なくファイバーに導入し、望遠鏡下部に設置された分光器へ送ることによって、熱や振動の影響を受けずに安定して高精度の観測を行う事ができます。

MODHISサブシステムの配置図。サポート構造/ローテータ/装置波面センサ (SRO) とフロントエンド装置 (FEI) は、補償光学系(NFIRAOS)の上部に配置されます。ファイバー伝送系(FIB)は、天体の光を分光器(SPEC)へ導きます。SPECと較正装置(CAL)は、望遠鏡架台の設置階への配置が検討されています。 (クレジット:TMT国際天文台)

SROとFEIの概念図。SROは補償光学系との接合部、FEIはファイバー伝送系への中継部になります。MODHISは、すばる望遠鏡やパロマー望遠鏡、ケック望遠鏡の観測装置で実証済みの技術を多く採用して開発要素を抑えている一方、補償光学系とのインターフェース設計はTMT固有に行う必要があり、まだ初期検討の段階にあります。初回の審査会では、主にこの部分に焦点をあてて、装置性能実現性や開発リスクの他、安定性、信頼性、使いやすさなどの運用面が評価されました。(クレジット:TMT国際天文台)

分光器(SPEC)の概念図。SPECは、青 (波長 0.98-1.33 ミクロン) と赤 (波長 1.49-2.46 ミクロン) の2つの分光器から構成されています。SPECと較正器(CAL)は、望遠鏡から離れた場所に設置して、振動や熱の影響を回避します。SPECでは可動部を最小限にし、さらに、システム全体で起こりうるあらゆる変化をCALで較正することで、測定の高い安定性と再現性を保証します。(クレジット:TMT国際天文台)

TMTの観測装置グループリーダーであるデイビッド・アンダースン氏は、「多くの作業をこなし、MODHISの最初の詳細な外観を提供した装置チームと、MODHISをより良い装置にするために時間を割いてくださった審査員の方々に感謝します。MODHISは、特にハビタブルゾーンにある太陽系外惑星の特性評価に、これまでにない能力を発揮することになるでしょう」と述べています。

プロジェクトマネージャーの寺田は、「MODHIS概念設計を始動し、初回の中間審査を終えたことは装置開発にとって大きな第一歩となりました。この審査で得られた多数の貴重な示唆を生かして、今後も間断なくMODHIS開発を進めていきます。MODHISが目標に掲げる系外惑星探求の分野は、科学の進展が目覚ましく、また、技術も急速に発展しています。その中で日本の天文コミュニティが果たしてきた役割は極めて重要であり、MODHIS開発においても大きな貢献を期待しております」と述べています。


参考:MODHIS Completes First Phase of Conceptual Design Review (TMT国際天文台)

三鷹・星と宇宙の日2022

三鷹・星と宇宙の日」は、毎年10月に行われる国立天文台三鷹キャンパスの特別公開です。今年は3年ぶりに来場者をお招きしての現地開催と、オンライン開催のハイブリッド形式となりました。TMTプロジェクトとハワイ観測所の合同企画は、スタッフの意見が一致しまして、現地開催になりました。

展示棟にある、TMTの主鏡(分割鏡)試作品を一般の方に見ていただくのも、3年ぶりのことです。TMTの望遠鏡本体や装置についても、ポスターを前にしてプロジェクトメンバーが丁寧に解説しました。

コロナ禍前には恒例となっていたシール貼りも復活。分割鏡の25分の1のサイズのカードにアルミシールを貼りながら、主鏡の製作工程に思いを馳せてもらいます。

すばる棟では、「ハワイ島マウナケアの紹介」、「分光器の工作と光の観察」、「すばる望遠鏡のリモート観測室見学とバーチャルツアー」の3つの企画を行いました。ポスターの一部はオンラインサイトでもご覧になれます。

「マウナケア紹介」では、すばる望遠鏡のあるハワイ島マウナケアと、ハワイでの国立天文台の取り組みについてのポスターを展示しました。あわせて展示した、すばる望遠鏡とTMTの模型は、子どもにも大人にも人気でした。

「分光器コーナー」では、CDを用いた簡易分光器の工作と、それを用いた光の観察を行います。自分の作った分光器で、蛍光灯、白色電灯などの身近な光源に加え、水素、水銀、ネオンなどの元素が放つ光も観察できます。同じ原理を利用して、天文の分光観測が行われること、すばる望遠鏡では巨大な分光装置が開発中であることも説明されていました。

こちらは、「すばる望遠鏡のリモート観測室見学とバーチャルツアー」の様子。11月に本公開された3Dバーチャルツアーの先行公開が行われました。VRゴーグルを用いて、すばる望遠鏡ドームの中を自由に散策します(左)。VRゴーグルの年齢制限がある子どもたちは、タブレットを使用してすばる望遠鏡を探検します(右)。

すばる望遠鏡の観測を三鷹から行うためのリモート観測室の見学。実際にリアルタイムで観測が行われている様子が複数の画面に映し出されています。

見学ツアーの待合室では、ソファにくつろぎながらすばる望遠鏡の動画を眺めたり、すばる望遠鏡や天文に関する疑問を自由に質問する姿も見られました。

コロナ禍になってから初めての現地開催となった「三鷹・星と宇宙の日」でしたが、感染対策をしっかりと取った上で、来場の方々との交流を楽しむことができました。来年はさらに多くの方が来場いただけるようにと願っています。

 

望遠鏡ユーティリティサービスの詳細設計が完了

望遠鏡本体構造に付設されるユーティリティサービスの詳細設計(TMT国際天文台が主担当)の完了確認会が2022年3月16日(日本時間)に開催されました。今後は製造準備作業を経て製造へ移行します。

望遠鏡本体構造の中には、電気、通信、望遠鏡と装置の冷却などの基盤設備(ユーティリティサービス)も含まれます。これらのサービスは、電気、通信用のケーブルや給排水、冷却用の配管を支える、トレイ、ラック、巻取り装置などを通じて提供されます。

望遠鏡本体に配置されたユーティリティサービス(トレイ、ラック、貯蔵タンクなど)。望遠鏡のユーティリティは方位軸の巻き取り装置を通過してから、ナスミス台におかれた観測装置などの機器へ送られます。(クレジット:TMT国際天文台/国立天文台)

ユーティリティーサービスを通じて、各機器へ電力や通信ネットワーク、機器を適切な温度に保つための冷媒などが提供されます。配管やケーブルの支持構造と配電盤は、大地震にも耐えられるように設計されています。

今回の審査会で、望遠鏡本体構造チームは、(1)望遠鏡ユーティリティサービスが、作業員の安全と、鏡や観測装置の保護のための安全基準を満たすことと、(2)前回の審査で出されたすべての課題を解決できたことを示しました。

望遠鏡ユーティリティサービスの最終設計審査1(FDR1)を締めくくる会議の様子(日本時間2022年3月16日)。国立天文台からは、望遠鏡本体チームの田澤、杉本、寺田、齋藤が参加しました。(クレジット:TMT 国際天文台)

 


参考:Updates for TMT Telescope Structure and Utility Services (TMT国際天文台) (英語)

 

分割鏡交換機構の製造準備が進む

製造準備段階にある分割鏡交換機構の技術報告会が2022年3月22~23日に実施され、長期にわたる運用を考慮した信頼性、交換機構の製造性、システム試験計画などが報告されました。今後、技術報告会で挙がった10件程度の確認事項のチェックを終えた後に、製造段階へ移行する予定です。

分割鏡交換機構は、主鏡を再メッキされた予備の鏡に交換するための装置です。主鏡を構成する492枚の分割鏡全てを2年以内に交換するために、2週間ごとに約10枚の分割鏡を交換することになっています。その作業を安全かつ迅速に行うため、鏡の場所まで正確に移動して自動的に交換動作を行う分割鏡交換ロボットが活躍します。

分割鏡交換機構の主要なサブシステム。メインブリッジとセカンダリブリッジは、分割鏡交換ロボットを、交換する分割鏡の位置まで導く役割をします。分割鏡交換ロボットがスムーズに移動できるように、メインブリッジとセカンダリーブリッジの間には、精密なアライメント公差が設定されています。(クレジット:TMT国際天文台/国立天文台/三菱電機)

分割鏡交換機構のメインブリッジは、主鏡の上部を時計の針のように回転することで、分割鏡交換ロボットを交換したい鏡の位置へと導きます。(クレジット:TMT国際天文台/国立天文台/三菱電機)

分割鏡交換ロボットを支えるトロリー。分割鏡交換ロボットを吊り下げた状態でセカンダリブリッジとメインブリッジの内側を移動します。(クレジット:TMT国際天文台/国立天文台/三菱電機)

2022年3月に行われた分割鏡交換機構の製造準備・技術報告会。国立天文台からは、望遠鏡本体チームの杉本、小俣、楠本、田澤、寺田、齋藤のほか、主鏡部門の林、装置部門の中本、プロジェクト長の臼田などが参加しました。(クレジット:TMT国際天文台)

審査に参加した、TMT国際天文台のカイル・キノシタ(望遠鏡本体チームリーダー)は、 「三菱電機、国立天文台望遠鏡本体チーム、TMT国際天文台の望遠鏡本体とシステムエンジニアリングのチームは、この5年間、生産準備のための多くの課題に取り組んできました。その努力と素晴らしい仕事ぶりに感謝しています」と、報告会の成功を祝しました。


参考:Updates for TMT Telescope Structure and Utility Services (TMT国際天文台) (英語)