[1] ハワイの状況とNSF参加に向けた取り組み
◆ ハワイ州におけるマウナケア管理の新組織設立
マウナケア管理をハワイ大学から先住民代表を含む新組織に移す法案が、2022年5月3日の州議会で圧倒的多数で可決され、7月7日には州知事が署名し、成立しました。
これまでマウナケアの天文学について「ハワイ先住民の声が十分に反映されない」「望遠鏡が建設されても地元への還元がほとんどない」等、強い批判もありました。これに対応して、文化実践者を含む先住民があらたに管理組織の意思決定機関のメンバーとして加わることで、さまざまな方面からの意見を広く反映する仕組みができ、長年の不満の根本問題の解決につながることが期待できます。この動きは、TMTの実現、マウナケアにおける天文学にとっても大きな前進と考えています。
新組織の設立にむけ、州議会上下院やマウナケア天文台群などから構成メンバーの推薦が実施され、9月12日に州知事より8名のメンバーが発表されました。役職指定の3名と合わせた11名のメンバーにより、年内に新組織の会合が始まる予定です。ハワイ大学から新組織への本格的な移行は2023年より開始され2028年までに完了する予定です。
◆ ハワイでの米国国立科学財団(NSF)のプロセス開始
2022年7月19日、NSFがハワイにおける環境影響評価(EIS)と国家歴史遺産保存法(National Historic Preservation Act、NHPA)第106条に関するプロセスを開始することを発表しました。
TMT計画を進めるにはNSFの参加が不可欠であり、昨年のAstro2020でUS-ELTプログラム(TMTとGMTを合わせたプログラム)が最優先計画との評価を受けて以降、NSFとの協議が行われてきました。TMT計画についてはハワイ州のEISは実施済みですが、NSF参加のためには連邦としてのEISを実施するとともに、NHPAに関するプロセスが必要となります。
EISについては、8月9~12日にNSFによる説明会(Scope Meeting)がハワイ島(ヒロ、ナアレフ、コナ、カムエラ(ワイメア))で開催されるとともに、意見の募集が9月17日まで行われました。それらを踏まえて、2023年夏に評価書案が作成され、さらに評価書案に対する意見の募集や説明会も行われる予定です。
NHPAに関する会合は今後NSFから発表されることになっており、2022年冬から2023年にかけ、天文学関係者と先住民でマウナケアの重要性について対話し、文化的価値に沿ってマウナケアの資源を守りながら、科学を追究する方法を見出すことを目的とするワークショップを開催することが予定されています。
法的に定められたEISやNHPAに加えて、ハワイのコミュニティと関心をもつ人々がプロセスに参加する方法を示すコミュニティ参加計画案もNSFから発表されました。これは、Astro2020が提起した「コミュニティ天文学」に向けた取り組みといえるものです。この計画案に対する意見書も9月17日を〆切として募集されました。
◆ NSF基本設計審査(PDR)
2022年11月~12月に開催されるNSFによる基本設計審査(PDR)に向けた準備がTIOを中心に進められています。
NSFのPDRは、プロジェクトの予算やリスク特性等を詳細に調整、分析するために実施され、その結果に応じて、米国大統領府行政管理予算局(OMB)および米国議会に要求する大型施設予算(MREFC)案が決定されていきます。つまり、NSFが連邦政府に要求するMREFCに向けた最も重要なステップといえます。PDRを進めることを決めたということは、NSFが連邦政府の枠組みの中で具体的な予算
計画やその他の行動を開始するということを意味します。実際、NSFのPDRに合格したプログラムは、これまで全て実現しています(Gemini, ALMA, DKIST, Rubinなど)。
TIOは2020年5月にNSFに対して計画提案書を提出しています。PDRにむけ、この文書の改訂版を10月1日にNSFに再提出する予定です。
[2] 報告: TIO SAC (7/28)
7月28日のSACでは、主に次の5つの議題について議論しました。
(1) ハワイでの活動として、ハワイ州議会法案やTIOの広報活動について、F. Liuプロジェクトマネージャーから報告がありました。広報活動では国立天文台の嘉数悠子特任専門員やTIOのLeinani Lozi氏が学校教育支援などを行なっていることが紹介されました。
(2) NSFへのMREFC提案に必要な情報として、デスコーププランが科学運用等に与える影響の大きさについて、SAC内にサブ委員会を設置し議論しています。日本からは東北大学の秋山教授が委員として参加しています。コストの10%を目標にしたデスコーププランとして、主鏡枚数の削減、レーザーガイド星数の削減、観測装置冷却機能の削減などが候補として挙がっています。検討結果は
8月中にまとめられ、評議員会に提出される予定です。
(3) TMTの運用検討WGが、NOIRLabと議論を継続していることが報告されました。
(4) 研究者コミュニティによるTMTの検討活動を活性化するために、ISDT(International Science Definition Team)の活動を再開することについて議論がありました。
(5) NSF PDRに向けて、2015年に策定されたDetailed Science Cases (DSC)の更新作業がTIOで進められています。Astro2020の提言内容との整合性や、第一期観測装置の赤外高分散分光器MODHISによる観測研究の記述を強化しています。今後、2015年以後のサイエンスの進展をDSCに取り込むことも議論されています。
[3] 報告: TMT科学諮問委員会 (8/10)
今期最後のTMT科学諮問委員会が8月10日に開かれました。まず、TMT基礎開発研究経費の審査結果についての承認が行われました。次に、今期委員会で積極的に進めてきた、他分野を含む幅広いコミュニティ向けセミナーと宣伝の場の設定について話し合われました。現在は、埼玉大学の大朝委員を中心に、1年後に打ち上げ予定のXRISM1とTMTを関連付けたセミナーの開催を検討していま
す。今後も、委員が中心となり、幅広いコミュニティに向けた宣伝や各種研究会におけるTMTの話題提供といった活動を進めていきたいと考えています。
また、今期委員会では次世代装置開発ロードマップを作成し、TMTプロジェクトウェブサイトで公開しました。現在はその英語版を作成しています。今回の委員会では各章のご担当者に内容確認をお願いしました。9月中の完成を目指し、TMT-SACなどへの提出を検討しています。
[4] 報告:戦略基礎開発経費採択結果
将来のTMT観測装置の実現に向け、日本が装置開発でも重要な貢献を果たせるよう、プロジェクトではTMT戦略基礎開発研究経費を用意し、大学等の研究者が独自性の高いアイデアや技術を活かして基礎開発を実施することを支援しています。今年度は6月にこの経費への公募を行いました。
科学諮問委員会のメンバーと科学コミュニティからの外部審査員による審査の結果、6件の計画が採択されました。採択された計画については、後日TMTプロジェクトウェブサイトで公表する予定です。
[5] お知らせ:三鷹・星と宇宙の日 2022
国立天文台三鷹キャンパスの特別公開「三鷹・星と宇宙の日 2022」は、現地開催とオンラインイベント両方を実施するハイブリッドの形態で10月28日~29日に開催されます。現地開催(10/29)は事前申込・定員制です。TMTとすばる望遠鏡に関する企画は、現地開催を中心にして準備をしております。企画の詳細や申込方法などは、特設サイトに掲載される予定です。
[6] お知らせ:Edward Stone博士の日本学士院客員選定を記念した講演会
11月19日(土)に、TMT国際天文台の前総括責任者 Edward Stone博士の日本学士院客員選定を記念した講演会が開催されます。オンライン配信もあります。詳しくは日本学士院のページをご覧ください。
[8] 今後の予定 (諸会議、イベント、講演など)
10/11 TMT科学諮問委員会
10/28-29 三鷹・星と宇宙の日 2022
11/19 講演会「惑星探査50年の発見の歩み」